あなたは、パステルアートのインストラクターとして自分オリジナルのモチーフを作ることがありますか?
所属協会から「使っていいですよ」と許可が出ているもの(いわゆる“協会モチーフ”)とは違って、一から自分の好みや個性・想いを表現できるオリジナルモチーフ。
苦しくも楽しい創作作業ですが、そこには絶対に外せない注意点があります。それは「他の人のものを真似しない」こと。詳しく説明していきますね。
アイディアのタネはそこかしこにあるけど…
オリジナルのパステルアートのモチーフ作りを考え始めると、これまで何気なく見ていた様々なものの中に、沢山のアイディアのタネがあることに気づきます。
ベランダの美しいお花、ペットの可愛いしぐさなど、「自分だけが目にするもの」。

うんうん。うちの猫見てて「この表情描きたい」って思うこと多いですね~。
それ以外にも、「不特定多数の人が目にするもの」の中にも、「あ!これ、こんな風に描けるかも…」と心に残るデザインがあるはずです。
また、他の人の発表しているパステルアート作品そのものにも「素敵!」と思うことも当然ながらあるでしょう。
しかしながら、心が動いたものすべてが、発表してよいものというわけではありません。

うーん、気を付けているつもりではいますけど…。こういうのって線引きがあいまいで、緊張しますね。

緊張するってことは意識が高いってことだから、きっと大丈夫じゃないかしら。ポイントをおさらいして、振り返ってみましょう!
創作は自由だけど、発表は注意が必要
まず、大前提として、どんなものでも創作は自由です。パステルアートでも、その他の表現方法でも、個人的に何かを形にするということに制約は一切ありません。
問題は、それを発表する、そしてモチーフとして講座で使用する局面です。
そこで、そのモチーフが
「自分オリジナルと言えるもの」か
「誰かの、何かを元に真似して出来たもの」か
によって扱いを変えなければなりません。順番に考えてみましょう。
オリジナルと言えるものって?
ペットのしぐさ、家族の表情、庭の植物・花…これらは、発表・講座使用ともに問題ありません。アレンジや改造も自由です。自分が作ったのですから、いくらおこなっても製作者の意図に反することはありません。
誰かの、何かを元に真似して出来たもの って?
広告・漫画・日用品・映像作品など …いくら公共性があるものでも、そこにあるデザインは守られるべきものであることがほとんどです。
偶然見た目が同じになってしまった、というものではなく、それを見て真似をしたことが問題になります。どういうことか、考えてみましょう。
どうして「真似」はいけないのか~著作権で守られるもの~
「著作権」は誰でも耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。簡単に言うと、
ある人が心を砕き生み出したその人独自の作品は、その人の意図に反した使われ方から守られる権利がある
ということです。

む…むずかしっ!

そうね、でも大切な考え方だから、ざっと次のようなサイトにも目を通しておきましょ。
製作者の意図をゆがめてしまう行為
あるデザインを勝手にコピーされて、思っていたのと違う改変をされては製作者は不本意ですよね。また、使い方によっては、そうするつもりがなくても「本家」のイメージダウンに繋がって、損害を与えてしまうかも知れません。
無断で使用する行為
かといって、製作者のデザインの意図を汲んでさえいたら良いというわけではありません。製作者の意図しない誰かが、それを利用して無断で利益を上げていれば当然それも「侵害」です。製作者にすれば、「あなたの利益のために苦心したわけではないのに」となりますよね。
インストラクター心得
こういった行為が著作権で守られた様々な権利の侵害に当たることは、創作・発表活動をするインストラクターは必ず心に留めておきましょう。

極端な例で言うと、許可なく超有名キャラクターをモチーフにしたワークショップで参加費を取った場合…想像するのもオソロシイ…。

その辺りの認識、世代でズレがあるから怖いですね。うちの母だったら、意味分からずにやっちゃうかも。たま~に絵手紙の先生やってるから心配…。

あ、当たり前だけど許可があるならオッケーよ。他の人の図案なんかを元にやるなら、その人に許可もらって、と教えてあげてね。
「同案多数」モチーフはお互いに許容して
上で触れた著作権問題ですが、実はハッキリ線引きが出来るものではありません。
よく言えば親しみやすく、悪く言えば大衆的なのがパステルアートの特徴です。同じテーマで似たような図案が沢山あることは、想像に難くないでしょう。

例えば、「カンタンやさしい!5分で描けるあさがお」を色んなインストラクターが別々に考えても、大体同じようなものになるでしょうね。

そういった似たような図案の中で、
といったことが起こるのは、不毛です。
こういった「同案多数」モチーフについては、お互いに許容する方が気持ちよく過ごせます。
権利の線引きがあいまいですし、そもそも権利があるかどうか不明な場合もあります。Wikiの著作権の説明をご覧ください。
著作権が生じないもの
典型的にはまったく創作性のない表現と情報やアイディア・ノウハウ
誰が表現しても同じようになるものは創作性があるとは言えない。 (略)
著作権-Wikipedia 著作権の対象と要件 (2020.6.20時点)

うっ、刺さるワードですね…。
オリジナリティがないって、なんかダメなのかなって悲しくなります。

そんなことないですよ。誰が見ても分かる親しみやすさは、我々のジャンルの強みです。
分かりやすいということは、皆に愛されるってことでもあるのだから、いいじゃない。

確かに…。パステルアートって、ワークショップでは「分かりやすいから愛される」のかも。
独自性がないって卑屈になることはないのかな。

ただ、そういったモチーフは守られる対象にはならないことは自覚しておきましょう。
次に、同案多数ではなく、ハッキリ「これはそのインストラクター固有のモチーフ」と言えるものについて考えてみましょう。
ゼッタイNG!他の特徴的なパステルアート作品の真似

こ、これはダメ!駆け出しの私でも分かります。

そうね。一応、なぜダメかおさらいしときましょう。
例えば、私が考えた特徴的なモチーフが誰か(Xさん)に真似されたとして…。
いかがでしょうか?上に挙げたうちの一つでも、ご自身の身に起こったら理不尽と感じますよね。おそらくは、その複数が同時に起こってしまいます。

これは、やられた側としては憤懣やるかたない…となるのが自然です。

逆に、新参者としては、わざとじゃなくても誰かの権利に触れてないか不安なのですが…。

確かにね、でも大丈夫。いくつか注意しておけば防げますよ!
そもそも人のモチーフを見ない
自分の制作のスタイルが確立していない時には、いろいろ他の人の作品を見たくなってしまうものですよね。
検索したり、Instagramやユーチューブを見たり…。
かといって、一旦見てしまったら影響を受けないのは無理な話です。同じように描いてみることもあるでしょうし、気が付いたら似ているな、ということもあるでしょう。
それよりも、最初は同じような作品を見るのを我慢して、出来上がった後で、極端な重複がないかを確認した方が、心穏やかに制作できるかも知れません。

発表さえしなければ、何をどうしたって自由なんだけどね。
影響された場合、大きくオリジナリティを入れる
上とは逆に、しっかり影響を受けた自覚があって、似たようなモチーフになりそうな場合は、意識的に自分オリジナルの要素を入れましょう。
配置や配色を見直す、モチーフのテーマを変える、新しい要素を入れる…色々出来ることはあります。
それも、表面的なごまかしのためではなく、一旦自分の中に飲み込んで再出力するような感じでやらないと「自分がズルをしている」ような後ろめたさが残ってしまいます。
はじめて学ぶ著作権 表現のちがいで、分かりやすく解説されています。

大好きなパステルアートで「後ろめたい」なんてイヤだな…。
自分の作品の権利を守るためには
今度は、逆の立場で考えてみましょう。誰かに自分の作品の権利を侵害されたり、その心配をしなくていいための取り組みです。

自衛方法ですね!
真似されないものを作る
上でも紹介しましたが、誰でも考えられるようなものには、守られるべき権利は発生しません。
これは、同案多数かな…と思うものを発表する時は、同じような作品が後から出てきても不用意に「真似されたかも?」と思わない覚悟を決めておきましょう。
これは自分オリジナル!と主張するために大切なのは、同案多数にならないように、いくつかの要素を掛け合わせることです。
例えば…
季節は「梅雨」、色味は「ピンク」と「グレー」、キャラクターは「シロクマ」と「わたあめ」、テーマは「クラシックバレエ」、印象的な模様は「スペード型」、場所は「階段」

すっごい限定的…。確かにネタ被りは回避できそう。
季節は「ハロウィン」、色味は「赤」と「紫」、キャラクターは「ドクロパーカーのペンギン」、場所は「ラーメンの屋台」
いかがでしょう?


・・・。
例えは極端ですが、ここまで複数の要素をかけ合わせれば、もはや人と重複することはまずありません。ちょっと同案多数かな?と思う時には、自分のオリジナル要素を入れ込んで、被りなしの作品に仕上げましょう。

逆に、これが全部被っているものがあったらそれは、運命的に出会った魂の双子か、完全なるパクリです。

先生の次回作は、ハロウィンに屋台でラーメン食べるワルそうなペンギンですね。絶対描いてくださいよ。

・・・ごめん、たぶん、ムリ。
本当に真似されたのか、一旦落ち着いて考えて
また、他の人の制作物に「そっくり」と思ったものがあった時に、それが本当に誰かの悪意でわざと真似されたのかどうか、落ち着いて考えてみることも大切です。
もしかしたら、自分ではオリジナル要素を入れたつもりでも、意外と同案多数なモチーフだったかも知れません。
また、この描き方は自分だけしかしないと思った技法でも、同じ発想をした人がいるかも知れません。

ここはものすごく判断が難しいけど…、まずは信頼できる第三者に聞いてみるところからスタートするのがいいかな。
自分ひとりでは、なかなか冷静に判断が出来ないから。
特に、パステルアートは「絵が苦手でも描ける」が魅力のジャンルです。
言い換えれば、他のアートのジャンルには疎い人が多いとも言えます。
自分も含めて、他のアート技法には疎い可能性は、頭の隅に置いておきましょう。パステルアート以外では常識の技法だった場合、守られる対象にはなりません。

そういう意味で、同じような守備範囲の「パステルアート仲間」にアドバイスをもらうのは避けた方が無難です。

それでも、「どう考えてもクロ」なことがあったときはどうしましょう…?

まずは「やめてください」と意思表示すること、ここで解説した著作権を理解してもらうことですね。それでもダメな場合は…。
ううーん、ここから先はなんとも…。究極、法律の専門家を頼ることになるかしら。
ルールを守って楽しく創作!
ここまで読むと、「気にすることが多くて面倒…」と感じられるかも知れませんが、しばらく意識していれば習慣化できるものです。
世の中には自分が発表するより先に無数の作品が出ていますから、恐れていては何もできませんが、上に挙げた注意をしておけばそうそうトラブルになることはありません。
どんなジャンルでも、後発が気を使うのは仕方のないことです。逆に言えば、あなたの後に発表する誰かも、あなたに気を使っているはずです。そういった、「お互いさま」の好循環を作れるよう、インストラクター同士で心掛けていければ理想ですね。

真似はダメなんだっていうリテラシーがもっと共有されていけばいいけど…。

私が後進育成する時には任せてください!

おっ頼もしい!
まとめ
- 創作は自由だけど、発表には注意が必要
- 誰かの作ったオリジナリティのある制作物には「著作権」があり、安易に真似をすると「著作権で守られた様々な権利への侵害」になってしまうかも
- 自分の頭で考えたものや自分の所有物はモチーフにしても大丈夫
- どうしても影響を受けたものがあっても「似てる」と思われない工夫をしよう
- 真似されたくないときも、同案多数にならないよう工夫しておこう
- 真似されたかな?と思っても一旦冷静になって
- インストラクターとして、著作権を守って、教えていこう

「権利」と「マナー」の境界が難しいところですが、お互いに気を付けておけば間違いはありません。
業界の発展のために、我々が心掛けましょ!